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最高裁判所第一小法廷 昭和23年(れ)323号 判決 1948年6月24日

主文

本件上告を棄却する

理由

辯護人佐藤元吉上告趣意第二點について。

記録を調査するに辯護人は原審第二回公判廷において、所論浜野嘉一郎を被告人の実父野本淺五郎と共に當日在廷證人として訊問を申請したこと並びにその申請に對しては特に却下の決定を言渡さなかったことは所論のとおりである。しかし在廷證人の訊問申請は新期日の指定、裁判所外の訊問、證人の召喚等別段の手續を必要としないで直ちにその場で行われる訊問を求める趣旨のものであるから、かゝる申請があったにかゝわらず裁判所がその申請を許容することなく當日の審理を終え新期日を指定告知した場合には、暗默にその請求を却下する決定をしたものと見るを相當とする。然るに前記公判調書によれば、原審辯護人は、右公判廷において前記二名の在廷證人の外醫師小林哲、被害者川村都美子、実父の友人三宅清の三名を證人として喚問を申請したにかゝわらず、裁判長は合議の上右申請中證人として小林哲、川村都美子の二名のみの喚問を爲す旨を告げ、當日の公判はその程度にとゞめ、次回期日を指定告知し、訴訟關係人に各出頭を命じて閉廷した旨の記載存するから、原裁判所は右在廷證人を即時同公判廷において訊問することを許容しなかったこと明白であって、前述の理由により、これが請求を却下する決定をしたものと見ることができる。しかのみならず、その次回公判期日たる同第三回公判調書によれば、原裁判所は、同公判において右證人小林哲及川村都美子二名の訊問決定の施行を履行した外原審辯護人が在廷證人として前記三宅清の訊問を重ねて請求したのに對しこれを許容してその訊問を爲し、更らに辯護人が前記第二回公判において在廷證人として申請した野本淺五郎を證人として訊問を請求したのに對しこれを却下する旨決定を言渡したにかゝわらず、辯護人は、浜野嘉一郎に對しては遂にこれが訊問請求を爲すことなく辯論を終了した事実を認めることができるから、この手續過程から見ても、原裁判所は、所論浜野嘉一郎に對する前記第二回公判における在廷證人としての訊問請求を却下し辯護人においてもこれに異議をとゞめなかったものであることを窺い知ることができる。それ故原判決には所論のような違法はない。(その他の判決理由は省略する。)

よって刑訴第四四六條に則り主文のとおり判決する。

この判決は裁判官全員の一致した意見である。

(裁判長裁判官 齋藤悠輔 裁判官 沢田竹治郎 裁判官 真野毅 裁判官 岩松三郎)

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